年の初めの宮中行事に「歌会始の儀」があります。
例年、一定の題にしたがって国民からの詠進歌が募集されます。
毎年その年の御題にそって詠んだ詠進歌を応募しています。
宮中歌会始の儀応募詠進歌

斎 藤  進  (昭23年卒)

        
       平成21年 御題 「生」  
           ・・・應募詠進歌に寄せて・・・
   

私の好きな画家の一人に日本画の巨匠、東山魁夷さんがいますが、生前語っておられた次の言葉が印象深く心に残っています。

「純粋な心でまわりを見まわしてみると、ありふれた風景でも何と生命にあふれていることか」と。
実はこのような感覚は絵画への造詣の“ある”“なし”に拘わらず一般の人達にも多かれ少なかれ備わっていると私は思っています。
私達が自然のたたずまいに心を癒されたり、元気づけられたりするのも、この感覚を身につけているからに外なりません。

私が今年の詠進歌の御題「生」のモチーフに選んだのは樹齢千年と云う人間の一生に較べて桁違いに長い年月を風雪に耐えて生き抜いてきた巨大な楠の古木です。私が2年前に和歌山城を訪ねた折に出会った樹がいわばモデルです。
その樹は春が巡って来る度に今なお無数の緑を芽吹かせ、やがて、万緑の中で私が際立って美しいと感じている蔭影に富んだライトグリーンで全身を粧うのです。

風薫る5月・・・・野山も街も新緑に彩られるこの時期ほど生命の躍動感にあふれ人々の心を奮い立たせる季節はありません。そして人々に明るい未来を予感させたりもするのです。

扨て、 ’09年の新春は米国の金融危機に端を発した百年に一度といわれる大不況が、日本の経済や雇用問題に深刻な影響をもたらしつつある中で迎えました。
日本の政治の混迷とも相俟って世の中は不安と閉塞感に包まれています。
このような時期には一人一人が試練を乗り越える前向きな姿勢と未来への希望を持ち続けることが大切です。

私の詠進歌に託した祈りが、すべての人々の幸せに繋がることを念じています。

                平成211月    斎 藤  進


          平成20年御題「火」 
                 ・・・應募詠進歌によせて・・・